景清記事(公開前)

■見どころ(聞きどころ)について


-まずは見どころを聞かせて下さい


 場面転換や舞などの動きはほとんど無く、景清の隠棲する藁屋を中心に謡だけで進んで行きます。そのシテと地の謡が非常に技巧に富んでいますので、そういう意味では全編が聴きどころです。生まれてすぐ別れた娘(人丸)との邂逅があります。娘はまだ見ぬ父を求めて遥々訪ねて来たのです。娘の望みで八島の合戦を語るのですが、回向を頼んですぐに娘を帰します。出会いイコール別れなんですね。
 その八島の合戦の名場面、錏曳(しころひき)をシテと地謡が語っていきます。三保の谷四郎(源治方)の首の力と景清の腕の力が互角で、錏が切れ離れて振り返り、お互いのあまりの強さに感じ入って笑って引き分けたという豪快な話が語られます。この間シテは全くと言っていいほど動きません。地謡の表現力とシテの胆力の見せ場です。

-具体的に、地謡の聞かせどころはどの部分ですか


 景清は悪七兵衛景清という名を捨てたわけですね。捨てて日向の勾当として生きています。最初景清は娘の問いに名乗らず知らぬふりをします。娘に頼まれたワキ(里人)が、大声で「景清」と名を呼びます。景清は「かしましかしまし さなきだに。故郷の者とて尋ねしを。此仕儀なれば身を恥ぢて。名のらで歸す悲しさ。」と激高します。それを受けた地謡の「日向とハ日に向かふ、向ひたる名をば呼び給ハで力なく捨てし梓弓。~」が最初の聞かせどころです。


 そして錏曳(しころひき)の場面「景清これを見て。」から最後までですが、景清が夕日を受けて閃き輝く刀を抜き持ち敵陣に切り込む姿、ついに三保の谷と組み合い、満身の力で戦った後、「腕の強きと言ひければ。」と三保の谷が景清の腕力に感嘆する様、対して「頸の骨こそ強けれと」と景清は三保の谷の首の骨の強さを称えて、「笑つて。左右へのきにける。」と引き分けにして、互いに陣へ引きます。実際の当事者が語るのですから説得力があります。滅ぼされた平家の人々の恨みや悲しみを、すべて背負って生き残っているわけですからね。


■能「景清」について


-「景清」は若いときには付かないお役と伺いましたが


 お能にも階級があります。平物(ひらもの)や初伝といった若い役者が演じられる曲目がある一方で、「景清」は奥伝にあたります。奥伝(※)は別会でしか上演しません。宝生流では還暦を過ぎないと許されない曲です。奥が深く、技術的にも色々なことが要求される曲ですね。


 景清が盲目ということもありますが、動きはほとんどありません。謡が主体となります。とにかく謡の技術というか芸力がないと表現できる曲ではないのです。私の年齢(58歳)でやらせて頂くのは大変有難いことです。

-年齢の高い役者の方が演じられるのは理由がありますか


 景清は老武者、いわゆる老敗残兵ですね。平家が滅亡して、日向の勾当(盲人で検校の次の位)とはいえ、人から施しを受けて生きている無残で哀れな状態です。しかし、「大仏供養」で描かれている景清は、平家復活のために単身頼朝の暗殺を企てる烈々たる闘志を持っている人です。そうした、気概、心中にたぎる強さは、老いて乞食同然となり世を忍んで朽ちていくのを待っている今の景清にもないといけない。しかしそれは表には見せない。自分は既に死人と同じである。ですから今や唯一の身内であろう娘にも、自分と関わらずに生きよと帰してしまう。シテの謡に「御身は花の姿にて~」とあります。盲目ですから娘の姿形は分かりませんが、さぞ美しいのだろうな、華やかな事であろうなと感慨深くつぶやくのです。そうした人物像を描くことは若い時は難しいですね。技術の巧拙だけじゃなくて役者自身の人間が成熟することが芸につながって、それで出来るようになるのではないかと思います。


■培われた芸の力


-役者自身の成熟で見せる、しかも動きが少ない中で老残兵の雰囲気を出すというのは、どのように演じられるのでしょうか


 それが芸の力でしょうね。 「景清」の謡の稽古は二十歳くらいで受けています。勿論その時に(芸としては)出来上がってはいません。そこから自分で(その謡を)年齢と共に発酵させてきたわけです。
 節通りに謡うことはプロですから誰でもできます。ですが、それが本当に「景清」の謡になるかどうかは別問題です。鍛錬を重ねた芸の力と、人間の成熟度から生まれる表現力や説得力が加わってよい能が生まれるのだと思います。

-これまで発酵させてきた芸を拝見できるのですね


 そうなると良いですね。 過去にシテツレである人丸と従者は、松本惠雄先生、父、近藤乾之助先生、田崎隆三先生といった諸先輩がシテを舞われる時に何遍も勤めています。地謡も幾度も謡っています。そうして先輩方の景清像を間近で見たり聞いたりしてきました。


 先輩方の演じ方や解釈の違いを見て、自分が舞う時はどうするか、どういう景清を作るかということは、役者は無意識の内にやっているものです。そういう意味では培ってきたというか、膨らませてきたと言えるかも知れません。


■謡について


-この老残兵の悲哀を表現する謡を、どの様に稽古をされるのですか


 謡い込み、舌頭千遍ですね。 近藤乾三先生から受けた稽古(二十歳の時)が一番の頼りです。先生の稽古は厳しかった。特に松門節※はしぼられました。(※シテの最初の謡。落魄の境涯を嘆くが、節回しが難解な特別な一節) 稽古の後、何歳になったかと訊ねられ、二十歳ですと答えたら「俺が十(とお)の時にはお前くらいのことは出来たよ。」と言われたことをよく憶えています。


 松門節ですが、藁屋に引き廻し(作り物の内部を隠すための布。中の人物がまだ登場していない事を示す。)が掛かっている状態で謡い出すのですが、ここが大事です。最初で試されるといいますか、この出だしの一声で一曲の格(位)が決まってしまいます。


-名だたる先輩方の「景清」のツレをされたことは大変な財産だと思いますが、プロ同士でも舞台を見てワクワクするようなことはありますか


 松本惠雄先生の松門節を聞いた際は、身震いしました。
同じ舞台に立っている幸せ、素晴らしい能に出会えた幸せを感じると同時に、そういう舞台を体験することで自分の芸も磨かれていくんですね。 



-章先生が「景清」を舞納めとして予定されていたが叶わなかった。その曲を今演じることについての感慨はありますか

   (注: 金井章師は、平成15年3月の別会能で「景清」を舞い納めとして演能予定だったがその20日前に急逝。代役は近藤乾之助師が勤められた。)

 感慨というか、私と賢郎が従者と人丸を勤める予定だったので、もし舞えていましたら親子三代の舞台となり、父も本望でしたでしょうし、納得して舞台を去ることが出来ただろうと思います。
 そのずっと以前にも父は「景清」を演じていまして、その際に私は人丸をやっているのですが、その時のこともとてもよく憶えています。地頭は松本惠雄先生でした。従者は三川淳雄先生で、三川先生は今回の景清では地頭をして頂きます。


※奥伝

「隅田川」、「綾鼓」、「大原御幸」、「木賊」、「卒塔婆小町」、「鸚鵡小町」、「砧」、「求塚」、「定家」など11曲あり、その上にさらに三老女(「檜垣」、「姥捨」、「関寺小町」)がある

サイト更新情報

●5/29・・・平成30年6月の出演予定(雄資師)を追掲載しました

※6月は、シテ1番、地頭4番、講師・講演2回、地謡1番と、盛り沢山過ぎる予定となっております。どうぞご高覧下さいますよう、お願い申し上げます。

●5/28・・・平成30年5月、6月(一部)の出演予定(雄資師)を掲載しました

※久しぶりの更新、誠に申し訳ございません。既に終了しているものもあり、大変失礼しております。

 6月は出演が数多くございます。近日中に全公演をご案内いたします。

●3/16・・・3月25日(日)正午始 春の別会能のシテ出演「景清」のあらすじと鑑賞の手引き(見どころ)を掲載しました→コチラ

※是非、お読みくださって観劇のご参考になさって下さい

●3/16・・・平成30年4月の出演予定(雄資師)を掲載しました

●3/11・・・平成30年3月21日の吟松会 番外仕舞「梅枝 キリに決まりました

●2/17・・・3月25日(日)正午始 春の別会能のシテ出演「景清」に寄せたインタビュー[雄資の部屋]に掲載しました

●2/12・・・平成30年3月25日(日)春の別会能「景清」宜しくお願い申し上げます。トップページにタイトル掲載しました。

※特集記事近日公開

●2/11・・・平成30年2月、3月の出演予定(雄資師)を掲載しました

●1/1・・・新春ご挨拶を掲載しました

本年も変わらず本ウェブサイトをご愛顧くださいますようお願い申し上げます

●12/28・・・平成30年1月1日「新春能狂言」(Eテレ)出演を掲載しました

●12/28・・・平成30年1月の出演予定(雄資師・賢郎師)を掲載しました

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