甲斐国(現在の山梨県)身延山(みのぶさん)の僧たち(ワキ)が、諸国を巡って修行をしています。摂津国(現在の大阪府)住吉で突然の雨にあい、質素な庵に住む女(前シテ)に一夜の宿を借りることにしました。
僧は、庵に舞楽の太鼓や舞の衣装が置かれているのを不思議に思い、女に尋ねます。女は、住吉大社の伶人(雅楽演奏者)であった夫・富士と天王寺の伶人・浅間が内裏の管絃の役をめぐって争い、管絃の役は夫・富士に決まったこと、それを恨みに思った浅間に夫が殺された顛末を語ります。富士の妻は夫を恋しく思いながら形見の太鼓を打って心を慰めていましたが、ついに亡くなってしまったことを語り、僧に回向を頼んで姿を消します。
夜、僧たちが読経していると、夫の形見である舞の衣装をまとった富士の妻の亡霊(後シテ)が現れます。亡霊は、非業の死を遂げた夫への恋慕で涙にくれた生前を回想し、越天楽今様(えてんらくいまよう)を謡い、懺悔の舞を舞います([楽])。そして、楽の音と松風の音が一つになって、暁の闇のなかに姿を消すのでした。