岩船記事(公開前)

■能「岩船」の魅力はどんなところでしょうか
脇能の舞台は神社の境内だったり、山奥であったりしますが、「岩船」の場合住吉の宝の市で、国際色豊かな貿易港です。そこに「姿は唐人なるが。声は大和詞なり」という童子が宝珠を手に捧げて現れる。

童子は君への捧げ物と言って宝珠をワキへ渡し、平和な御代をことほぎますが、松風の吹く美しい景色のなかに人々が賑わい、金銀珠玉が溢れるばかりに並んでいる市場の情景が前半の見せ場です。
しかしなんと言っても後シテ・龍神の勇壮な舞が一番の見せ所で、龍神は棹を手に、波間を滑るがごとく舞台上を駆け回ります。勇壮かつ軽妙、ですが天岩船を岸に引き寄せるだけの力強さも求められます。
観世流では子方の時分に初シテとして後シテ部分のみ舞うのが現行曲で、また古式の演出では後ツレとして天探女が出てきて、船の作り物に宝物を載せて華やかな能だったようです。
宝生を含め、無駄が省かれた現行の形となったのは、祝言能として単純な構成にし、シテの技量に焦点を当てさせるためだったと考えられます。
龍神の持つ棹は船頭のようですが、このために型は意外にも直線的で、他の龍神と違い飛んだり跳ねたりという派手な型はありません。この棹は見様によっては太刀のようで、まさに武士の式楽たる能の面目躍如でしょう。武骨に力強く舞うことがこの曲の本旨と思います。
■前シテは童子であり天の探女であるというつかみどころのなさがあり、更に後シテは龍神です
どちらも現実のものとはかけ離れていますが、こうしたものを演じられる際はどのように役作りをされるのでしょうか
前シテは童子で、男か女かも定かでなく、とらえどころのない神秘的な存在です。型も謡も、どちらかと言うと輪郭のぼんやりとしたものになるはずです。
一方、竜神と、例えば雷神、鬼神などでどう舞いわけるかと言うと、匙加減かもしれませんが、重厚か軽妙か、もしくは颯爽か粘り強くか、というバロメーターを自分のなかで作る必要があるのではないでしょうか。
しかし敢えての役作りというより、自然に身につくのがあくまで理想です。100研究して、そのうちの1個を舞台で出し、可か不可か。というのがこの世界かと。

■前シテと後シテで全く違うタイプの役というのは、お能ではよくあることですが、ご自身の中で切り替わる瞬間というのがあるのでしょうか
稽古を繰り返しするなかで、自然と切り替わると思います。内側から身体が変わるのでなく、カマエや型が変わると内側が切り替わるのです。
■地謡の聴きどころを教えてください
前場では、初動、「ここに行幸を住吉の」から、賑やかな市場の往来を謡いあげる場面。
後場は竜神が手に錨の綱をから巻き、えいやえいやと浜に打ち上げる場面。船が着岸するズズーンという音、白浜に霰と降る金銀珠玉。船体を打つ高波のごとく、大ノリの小気味よい調子のまま、怒涛の勢いで終盤へ向かっていきます。
■これまで実際の公演で「岩船」に携わられたことはおありですか
青雲会で能の前シテ、国立能楽堂の研鑽会で舞囃子もやりました。
また稽古会で前後通して能を舞ったのを含めれば、今回が3回目となります

■ご自身が思われる、ここは見逃してほしくないという場面などを教えてください
前シテの童子が両手で捧げもっている宝珠は、実のところ結構重さがあります。長々と謡っていてもカマエが乱れないのは鍛練の賜物と思って観ていただきたいところ。
また、童子の出の謡のなかに、「民豊かなる楽しみを何にたとへん秋津州や。高麗唐土も隔てなき」という句があります。
今の世界情勢を思えば、「中国や韓国とも隔てなく、安寧と繁栄を謳歌しよう」というこの謡は長閑すぎて牧歌的にすら思えますが、絶えず衝突を繰り返しながらも、国際交易の活性化が、この東アジアで互恵的な経済的繁栄と平和をもたらした歴史的事実を彷彿とさせます。
さらに言えば後シテ(龍神)が、国を守護する八大龍王を率いて宝の船を導く展開は、安全保障と国際市場の関係性を匂わせているようで、昨今の国際情勢を想起せずにはいられません(私だけかもですが)。
どちらにしろ、能自体は祝言のめでたい雰囲気で恙なく進行します。雲を駆ける岩船、高波のなかうねるように飛ぶ龍神、降り注ぐ財宝を、巧みに想像しながら楽しんで頂きたく存じます。
■独立されもうすぐ2年となられ、お弟子さんもいらっしゃいます
ご自身の中で感じる変化、舞台人として心がけていることなどはございますか

お弟子さんのお稽古や、講座、ワークショップなど大勢の方の前で能をご紹介するときもそうですが、能は決して高尚で敷居が高い芸能ではなく、生活や我々の身体に密接に根差した芸能だと思って頂きたいので、なるべくイメージに囚われない多角的なアプローチを心掛けております。
舞台の時も同様、多角的な視野で己を見つめ直すところからいつも稽古を始めます。一度限りの舞台でどれだけ稽古に打ち込み、真摯に挑むかが能の見どころの一つと思いますし、舞台上でそれを偽ることは至難ですから、稽古の量と質にはこれからもこだわりたいと思います。
■観劇される皆様に一言お願いします
刻一刻と変わる世界情勢のなか、心休まらぬ日が続いているという方も多いかと思います。能のテーマである「祝いと弔い」は、場所や時代に囚われぬ共通のものです。僭越ながら本曲が今一度平和や繁栄について考え直す機会になれば光栄に存じます。

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