熊野の阿闍梨・祐慶(ワキ)一行は、諸国廻国修行の途中、陸奥の安達が原
(現福島県安達太郎山東麓の野)で出会った女に一夜の宿を借りることにします。
そこの女(前シテ)は、枠枷輪(わくかせわ・糸繰り車)を使って糸を繰り、祐慶らに
我が身のつらさを語り聞かせます。女は「あまりに寒いので、焚き火にくべる木を
山に取りに行く」と言って出かける際、祐慶らに「閨の内を覗くことだけはするな」と
告げます。
供の能力(アイ・従者)は、閨の内部がどうなっているかが気になって仕方が
ありません。能力は、覗こうとしては祐慶に制止されますが、祐慶の眠った隙に
閨の内を見て、肝を潰します。そこには、無数の人の死骸が積み置かれ、腐臭が
満ちていたのです。
無我夢中で逃げる裕慶一行の前に、柴を持った女が鬼女(後シテ)の姿で現れ、
閨の内を見たことに激怒して喰い殺そうと襲いかかってきます。しかし、裕慶たちは
必死になって祈祷し、みごと祈り伏せられた鬼女は、夜嵐とともに姿を消すのでした。